改善活動の推進を担う、
専門人材を育成。
「ものづくり哲学」を
着実に受け継いでいく。
CASE STUDY
13名の工場診断士候補生から始まった、改善プロジェクト。
顕微鏡や医療用・工業用内視鏡、デジタルカメラなどの製造・販売を手がける、オリンパス。光学機器、電子機器メーカーとして世界中にその名を知られる同社だが、過去には生産革新活動の取り組みが停滞した時期があった。
2005年、生産革新の担当部門では、社内のある状況を問題として取り上げた。それは、製造部門での生産革新活動が3~4年の周期で目標達成と衰退を繰り返していること。改善推進リーダーが入れ替わる度に改善が元の状態に戻り、同じ課題に取り組み直すということが行われていた。併せて問題視したのが、工場の実力を判断できる客観的な指標がなく、各工場の製造力を公平に比較しにくいこと。そうした状況を打破する方策としてTPS(トヨタ生産方式)の導入が検討され、コンサルティングの依頼先としてOJTソリューションズが選ばれた。 生産革新の担当者たちが目指したのは、工場の実態を客観的に診断し、そこで見つかった課題を現場メンバーとともに解決していけるような新しい仕組みづくり。そのために、職場に改善活動を定着できる人材(工場診断士)の育成が必要不可欠だと考えた。工場診断士の候補生として全社から選ばれたのは13名。モデル工程を伊那工場の対物レンズ加工・組立職場に定め、現場のチームリーダーなどを合わせて約20名によるプロジェクトを開始した。
当時、対物レンズ加工・組立工程が直面していたのは、直行率とリードタイムに関する課題である。工程間の仕掛品や在庫が多く、組立作業者のスキルにもばらつきがあった。段取り替えの手順にも標準がなく、リードタイムの悪化につながっていた。
国内の各拠点で実績を上げ、海外拠点にも展開。
それらの課題をどう解決していくか。OJTソリューションズのトレーナーが工場診断士の候補生たちに求めたのは、現場で浮上した課題を小さなものから一つずつ解決していく方法である。オリンパス社内ではそれまで、全体計画を立てて計画書を作り込んでから生産革新活動を始めていたが、指導を受けた候補生たちは現場に頻繁に足を運んで現状を見つめることの大切さを自覚するようになった。
工場診断士候補生たちの主導によって進められていったのが、レンズ加工職場の段取り作業の標準化によるリードタイムの短縮であった。また、組立職場では熟練作業者が身につけているカン・コツ作業を抽出して「作業要領書」にまとめ、技能の共有を図った。さらに、ライン外に「技能道場」を設立し、新人作業者などの技能レベルを一定以上に高めてから生産ラインに投入する仕組みを構築。こうした改善活動は、他の工程や間接部門にも広がり、業務委託先を含めた工場全体の取り組みへとつながっていった。
こうして伊那工場でTPSの「あるべき姿」を学んだ工場診断士の候補生たちはその後、自分の所属工場に戻って生産革新活動を進めていった。また同時に本社で行われたのが、生産調査部の設立である。これは、トヨタの生産調査部をモデルとして作られた組織。強い発言力を持って現場での改善活動を進める体制が作られ、工場診断の仕組みと工場診断士育成の体制づくりが加速していった。
13名の工場診断士候補生への指導から始まったTPSは、現場の管理監督者にも教育され、やがて生産革新活動における全社的な哲学として浸透。医療用内視鏡や映像機器などの生産を手がける国内40か所以上のラインで成果を上げたのに続き、海外の各拠点でも診断が行われ、工場診断士は世界各国の生産現場から頼られる存在となっていった。改善活動の定着・継続を支える、人材づくりの取り組み。オリンパスの改善の精神とものづくり哲学は今、世界中の現場に共有されている。
CORPORATE DATA
- 団体名/オリンパス株式会社
- 所在地/東京都新宿区西新宿2-3-1 新宿モノリス
- 設立年/1919年
- 資本金/1,246億円(2019年3月31日現在)
- 連結従業員数/35,124名(2019年3月31日現在)
- 事業内容/精密機械器具の製造販売