監修者
文室 義広
OJTソリューションズで、お客様の改善活動と人材育成をサポートするエグゼクティブトレーナーをしています。トヨタ自動車にて、製造現場の改善、販売店の事務系改善などの42年の経験をへてOJTソリューションズに入社しました。少林寺拳法で鍛えた「自他共楽」の精神を胸に、お客様の会社の社員になった気持ちで日々改善活動に伴走しています。
ひとつひとつの仕事にかかる時間を短縮できれば、その分仕事の幅が広がり、作業効率や生産性も向上します。トヨタでは仕事にかかる時間を短縮するために、3つの施策を実践しています。
1つ目の「標準時間の把握」は、その仕事をするためにいちばん早くできる最良のやり方を決め、それにかかる時間を標準として仕事をすることです。実践すれば正確なスケジュールを組み、予定通りに仕事を遂行できるようになります。2つ目の「準備時間の短縮」は、付加価値を生み出さない準備時間を短くして、生産性を上げるための施策です。3つ目は「仕事を内と外に分けて考える」です。のちほど紹介する4つのステップで、全体的な仕事の時間を短縮できます。
本記事ではこれらの施策を用いて仕事にかかる時間を短縮するコツをご紹介します。仕事の段取りが悪いと感じている方は、ぜひご覧ください。
トヨタには仕事の方法の基準を表す「標準」という考え方が用いられていますが、仕事をする時間に対しても「標準時間」が設けられています。標準時間とは、どの仕事にどれくらいの時間がかかるかを表す指標で、作業をスケジュール通りにこなすためには欠かせないものです。
この標準時間とは平均時間とは異なり、いちばん早くかつミスや不良なくできるやり方を標準と定めることがポイントです。いちばん早くできるやり方を共有することで、余計な手順や作業が生まれるのを防ぎ、最短の時間で仕事を終わらせることにつながります。
どのような仕事でも「こうすれば正確かつ効率的にできる」というやり方があるはずです。そのやり方を見つけるには、仕事に慣れたベテラン社員のやり方がヒントになることが多いでしょう。まずは手際よくミスなく作業をこなしている人を探し、その人のやり方を皆ができるように展開しましょう。
しかし、特にオフィスワークに関してはひとりひとりが担当する作業量や内容に差があります。標準時間を職場全体で合わせるのは難しいでしょう。そういった場合、まずは自分の作業時間を記録することから始めてみてください。どの仕事に自分が何分かけているか、を把握するだけで気づくことも多いです。時間を記録したら、そこから時間を縮めるために何をしたらいいかを意識していきましょう。
自分が担当している作業のひとつひとつに、どれくらいの時間がかかっているか把握できていない人も多いはずです。そのため、まずは時間を計る前に1日の仕事の流れやひとつひとつの作業の流れを書き出すことから始めてみてください。
トヨタでは製造現場の作業を1秒単位で記録することで、徹底的にムダを排除しています。1秒単位でなくとも10分、15分単位で記録をおこなえば、本来数分で完了する作業に数十分かかっているなど、新たな気づきを得るとムダを省く方法を考えることができます。また、時間の見積もりができることでスケジュールの精度もあげることができるでしょう。
トヨタでは仕事をおこなうための「準備」の時間を、付加価値を生み出さない時間と考えています。生産の現場では製品を切り替える際に発生する準備作業を「段取り替え」と呼んでいますが、当然、準備をしている間は付加価値を生み出すモノの生産ができないため、この時間をできるだけ短縮することを目指しています。これにより、生産性を落とすことなく多品種少量生産を実現することが可能になります。
つまり、準備の時間を短くすればするほど生産性が上がり、会社全体の利益にもつながります。トヨタでは、この段取り替えの時間をいかに短くできるかを常に考えていて、実際に時間短縮に成功した事例も存在します。
トヨタでは今も昔も、段取り替えの作業は発生していますが、1960年頃はドアのプレスの段取り替えには3日という長い時間がかかっていました。当時は今のように豊富な車種を生産していたわけではなかったため、段取り替えに長時間かかっても大きな問題になることはありませんでした。
しかし、日本が高度成長時代に入り自動車の需要が高まると、今までのように段取り替えに長い時間をかけるのが難しくなりました。この背景をきっかけに、段取り替え作業の一部である調整業務の最小化と良品条件の設定というトヨタ独自の施策をおこなった結果、最終的には3日が80秒にまで短縮されました。
段取り替え、いわゆる準備時間の短縮はオフィスでも必要不可欠です。準備時間の短縮は仕事の段取りを考えるうえで重要なポイントになるため、効率的なスケジューリング・生産性の高い業務につながります。
例えば、営業担当の場合、複数の顧客に合わせてひとつひとつ企画書を作成すれば、膨大な時間がかかってしまいます。しかし、汎用性のある企画書のフォーマットを用いれば、顧客に合わせて内容や数字を少し変更するだけで新しい企画書として使用できます。フォーマットは個人が利用するのではなく営業部全体で共有すると、新人・ベテラン問わず、企画書作成にかかる時間の短縮や質の向上につながります。
仕事をおこなう際、「内」と「外」の考え方を持っておくと、仕事にかかる時間を大幅に短縮できる場合があります。先述した段取り替えには、大きく分けて「内段取り」と「外段取り」の2つがあり、それぞれ性質が異なります。
生産現場での内段取りとは設備を停止しないとできない準備作業、外段取りは設備の稼働を止めなくてもできる事前の準備作業を言います。わかりやすく表現すると内段取りは「その人・その場所・そのタイミングでしかできない作業」外段取りは「作業の前後やその人以外にも可能な準備」と言えます。
生産現場以外でも、内段取りと外段取りの考え方を応用すれば、作業時間を短縮できます。段取り替え時間の短縮は、以下の4つのステップで実践されます。
まずは、①内段取りと外段取りを分けるについて説明します。
内段取りと外段取りが区別されていなければ、本来は外段取りで完了させるべき仕事が内段取りにまで入り込み、内段取りをおこなう時間や負担が大きくなってしまうことがあります。その結果、生産性が低下し、全体的な仕事の流れの悪さにもつながります。
例えば営業の場合、内段取りはお客様にかける時間、外段取りはアポイント獲得や企画書の作成にかける時間と置くことができます。お客様との商談中に製品の質問を受けた場合、外段取りで事前の準備をしっかりしておけば、その場であわてることなくスムーズに対応することができるでしょう。
管理職こそ、外段取りではなく内段取りに専念すべき立場です。本来は部下のマネジメントをすべきであり、部下がやるべき仕事を代わりにフォローするのは推奨できません。助けになりたい気持ちや過去の経験からそのような行動を取ってしまう方も多いですが、このようなケースは内段取りと外段取りの区別がついていない状況です。
管理職は、本来の仕事に徹して部署の成果を引き上げるのが役目であるため、部下がやるべき仕事は、外段取りとして部下に任せることが全体の成果につながります。
仕事を内と外に区別できたら、次は②内段取りを外段取りに移します。仕事は内段取りの時間を短くすればするほど生産性向上につながると考えられているため、常に外段取りに回せる仕事はないか、アンテナを張っておくのが大切です。
ひとつひとつの仕事を分析していくと、今までは内段取りでおこなってきた作業も、実は外段取りでまかなえることに気付くかもしれません。自分以外の誰かに任せられることはないか、その場所以外でできることはないか、そのタイミング以外でできることはないかと、3つの視点を持って仕事に取り組むことでさまざまな仕事を内から外に移せます。
内段取りと外段取りの区別、内段取りから外段取りへの移動ができたら、最後に③内段取りの作業時間と④外段取りの作業時間を短縮します。仕事の時間を短縮する際は内段取りから先に取り組みます。
例えば、営業の場合、今までは口頭で商品やサービスの説明をおこなっていたのを、事前に動画にわかりやすくまとめるなどが内段取りの短縮に当てはまります。説明時間の短縮とともに、顧客の理解も促進されて商談時間そのものの短縮につながる可能性もあります。
内段取りの時間が短縮できたら、今度は外段取りの時間の短縮をおこないます。外段取りの仕事として企画書の作成などがありますが、作成時に必要な情報やデータの収集は部下に任せることもできますし、必要な作業を分担すれば企画書作成にかける時間を短縮することができます。
このように、仕事を内と外に分ける・内を外に移す・内の作業時間を短縮する・外の作業時間を短縮するといった4つのステップを踏みながらそれぞれの時間を短くすることによって、仕事全体の時間を短縮しながら成果をあげることが可能になります。
仕事の生産性や質を上げるために「時間」を意識することはとても大切です。トヨタの考えから、仕事の時間を短くするためのポイントを紹介しました。
このような観点でぜひ仕事の時間短縮に取り組んでみてください。
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