監修者
丸山 浩幸
OJTソリューションズで、お客様の改善活動と人材育成をサポートするエグゼクティブトレーナーをしています。大阪府出身、トヨタ自動車の品質管理にて41年の現場経験を経て、OJTソリューションズに入社しました。お客様の現場では「この改善、よかったで!」ともう一声の思いやりを大事に、仲間意識が高まるような改善活動ができるよう日々伴走しています。
企業の課題としてよく挙げられるのが、生産性の向上です。生産性の向上は業種や業界を問わず求められますが、簡単に改善できるものではありません。
製造業の生産向上を図ることで、コスト削減や利益の拡大、品質を高く保てるなどさまざまなメリットがあります。しかし、そもそも生産性向上に取り組む理由を理解していない方や、そもそもメリットがわからない方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、製造業における生産性向上を目指すメリットを解説します。製造業で働いている方、担当者は必見の内容です。
企業の課題としてよくあげられるのが、生産性の向上です。生産性向上は業種や業界を問わず求められますが、特に製造業においては収益に直結する重要な指標です。
生産性向上はニュースや記事などでよく目にする言葉です。意味や必要性、メリットはなんとなく理解している方が多いとは思います。しかし定義や生産性向上の具体的な進め方などはご存じない方もいるのではないでしょうか。本記事では、特に製造業における生産性向上についてトヨタの事例を交えながら解説します。
まず、生産性とは何かをあらためて確認しましょう。ごく簡単に説明すると以下の式で表せます。
生産性=アウトプット÷インプット
アウトプットとは、生み出したモノやサービスのことです。インプットとは、投入した人の労働時間、材料、設備などの資源のことです。つまり生産性とは、いかに効率よくモノやサービスを生み出せているかの指標のことです。同じ資源の量を投入してアウトプットの量が多い場合は「生産性が高い≒効率がいい」と言えますし、アウトプットの量が少ない場合は「生産性が低い≒効率が悪い」と言えます。
また、労働生産性という言葉もよく聞く言葉でしょう。労働生産性は一般的に以下の式で表せます。
労働生産性=アウトプット÷労働者人数(もしくは労働者人数×就業時間)
よくニュース等で「日本は国際比較で労働生産性が低い」という言葉を見かけることがあるかと思います。これは多くの場合、アウトプットをGDPで計算しています。GDPは為替の状況や国による産業構造の差なども影響しますので、一概に判断はできません。日本のランキングが低いから自分たちの会社の生産性は低い、と悲観しすぎる必要はありません。
環境の変化により、生産性向上に取り組む必要性は増しています。特に以下の2つは今後の製造業において大きな影響を与えることが予測されます。
1つ目は日本の労働人口の減少です。少子高齢化の影響で子供の数は減少し続けており、この傾向は今後も続くとされています。製造業に限定すると、現在でもすでに就業者数が減少傾向にあります。総務省の労働力調査によると、2002年には1202万人だった製造業就業者数は2021年では1045万人と約13%もの減少が見られます。
さらにリクルートワークス研究所の調査“未来予測2040”によると、この傾向が続けば2040年には製造工程(生産工程)に関して労働需要に対して労働共有は112万人不足するという分析も出ています。そもそもの人口減少や製造業の採用難・離職増を考えると今後の製造業の労働人口の減少は避けられません。つまり、人材の量というインプットが減少することを意味します。仮に生産量が横ばいだったとしても、インプット量が減るわけですから生産性の向上はもはや必須といえるでしょう。
2つ目は国際的な競争の激化です。日本以外の国が発展するからという単純な理由ではなく、デジタル化による水平分業が進み、製造業への新規参入が加速することが予測されています。デジタル化の発展はめざましく、設計・生産手法・現場オペレーションなどが外に持ち出せる形でデジタル化してきています。簡単な例をひとつ挙げると、かつて職人技と呼ばれていたような個人の技術もデジタル解析で簡単にデータにできる時代である、ということです。
もちろんデジタルを自社の中の改善に活用できるというメリットもありますが、持ち出せるデータになるということのリスクもあります。将来的には、こういったデータを提供してもらい、製造業における一部の機能だけを安いコストで請け負う、という新規参入が加速していくでしょう。新規参入が増加すればそれだけコスト競争は激しくなります。この競争に対抗するためにも生産性向上に今のうちから手を打っていくことが重要です。
生産性向上がもたらすメリットは多岐にわたります。ここでは特に注目したいメリットを3つご紹介します。
人材不足の解消 1つ目のメリットは人材不足の解消です。少ない人員の投入で効率よく製造するしくみがつくれば、現在直面する労働人口減少・採用難・離職増の問題に対抗できます。もちろん採用を増やす、離職を減らす、という努力も継続的に必要です。
しかし、労働人口の減少などの大きな世の流れに対抗することは個々の企業ではなかなか難しいでしょう。今できることは「今会社にいてくれる人材」の活用です。ムダ・ムリ・ムラを排除する改善をして生産性を高めることは現場で働く従業員の働きやすさにもつながります。
以下の記事では、トヨタで提唱される7つのムダを詳しく解説しています。それぞれの定義や改善の手法だけでなく覚えるコツもまとめているので、ぜひご覧ください。
2つ目のメリットは競争力の強化です。生産性があがるということは、少ないインプットで効率的にものが作れるということです。インプット量が少なくなることはコストに直結してきます。単純に価格を下げて競争力を高める場合もあるでしょうし、浮いたコストを研究開発に充てたり、従業員の福利厚生に充ててエンゲージメントを高めることも可能です。
改善や人材育成時間の確保 3つ目のメリットは改善や人材育成時間の確保です。時間も重要なコストです。少ない投入時間で効率よく製造ができれば、その分の時間が浮いてきます。ここで単純に浮いた時間や人員をほかの工程に充てて全体最適をはかることも有効ですが、改善や人材育成の時間に充てることをおすすめします。時間が浮く→改善と人材育成に充てる→人が育つ→さらなる生産性向上のアイデアが生まれる、というサイクルをつくることが継続的な生産性向上のポイントです。
トヨタでももちろん生産性は重要な指標です。大きく以下の3つの生産性を重視しています。
労働生産性とは上述の通りです。トヨタでは独自の指標を採用しているので、それは後ほど解説します。材料生産性とは「どれだけの材料を投入してどれだけのアウトプットを出せたか」の指標です。設備生産性とは「設備(有形固定資産)に対してどれだけのアウトプットを出せたか」の指標です。この3つの生産性を全社的に重視していますが、とくに製造現場においては労働生産性を目標として持ち管理しています。
トヨタの製造現場では労働生産性のことを「能率」と呼んで管理しています。能率の計算式は以下です。
能率=製品時間(基準時間×合格数)÷総作業時間
基準時間とは、会社で定めた製品一つあたりつくるのにかかる時間のことです。製品時間とは、その基準に合格数(≒生産計画数)をかけたものです。総作業時間はその名の通り作業をした時間です。総作業時間には管理者の労働時間も含みます。わかりやすく数字をあてはめて考えてみましょう。
基準時間:1時間/個
合格数:100個
総作業時間:90時間
基準時間1時間×合格数100個 ÷ 総作業時間90時間 = 100÷90 = 1.11…
この場合、能率は「1.11…」です。会社で決められた時間÷実際にかかった時間、の式ですので、1以上の数字が出ているということは能率が高く、効率よく生産できているということになります。トヨタの製造現場では、部署単位・月単位でこの能率を指標として管理しています。アウトプットを「時間×量」にしているところが特徴的です。
生産性の定義やメリットがわかっても、実現するのはなかなか難しいものです。ここでは実際に労働生産性を高めるための方法と順序をお伝えします。
まずは現状の把握です。今の時点で何人で・何時間かけて・何個のものを製造しているかを把握しましょう。ここで見栄を張る必要はありません。ありのままの実力をはかることが重要です。製品や人によるばらつきも出てくるかと思いますが、ここで正確さにこだわりすぎると先に進めません。思い切って平均をとるなどして実力を把握しましょう。
実力がわかったら、次は基準を決めます。基準のあるべき姿は、需要予測や生産計画、作業時間の積み上げでサイクルタイムを決定して…と複雑な要素を総合して決めるものです。しかし現状把握と同じく、あまりにも精緻に作ろうとして時間をかけすぎると先に進めません。まずは生産性向上のいいサイクルをつくるために、現場と経営が合意できる現実的な範囲での基準を定めましょう。
基準を決めたら、次は実績との差を視える化します。ここでは「差を皆が共有する」ことが重要です。この段階で改善を急ぎすぎる必要はありません。逆にこの段階で「何かしなければ」と焦ると見当外れの打ち手になってしまう場合があります。この基準と実績の差は製造にかかわる全員が視えることが重要です。一部の管理職や生産関連の部署のみがデータを見られる状態では現場に実感がわきません。差がある実感がないと改善のモチベーションもあがりません。
基準と実績の差が視えてきたら、まずは何が原因で差が生まれているかを分析します。作業のやり方に問題があるのかもしれませんし、単純に工程ごとの人数バランスがおかしいのかもしれません。原因を分析し、改善効果が大きそうなものから順に手を付け、改善していきます。
改善が終わり、基準と実績の差がない状態、もしくは基準よりも少ない投入量で製造できるようになったら、次はあらたな基準を設定します。ここであらたな基準を設定しなければ、生産性はそれ以上向上しません。現状維持を狙うと、むしろ退職や異動などのイレギュラー自体が起きた際に生産性が低下します。
ここからは繰り返しです。あらたな基準と実績の差を視える化し、差の要因を改善し、さらに新たな基準を決める…の繰り返しです。
かなり大きな枠組みでご説明しましたが、これが現場の労働生産性を高める基本の進め方です。
本記事では、製造業の生産性向上について解説しました。
冒頭に述べた通り、人材不足は未来に続く課題です。採用難、離職増は今後も避けられないでしょう。今いる人材の活用、生産性向上は今後の企業の生き残りの鍵になってきます。ぜひ今日から生産性向上に取り組んでみてはいかがでしょうか。
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