監修者
文室 義広
OJTソリューションズで、お客様の改善活動と人材育成をサポートするエグゼクティブトレーナーをしています。トヨタ自動車にて、製造現場の改善、販売店の事務系改善などの42年の経験をへてOJTソリューションズに入社しました。少林寺拳法で鍛えた「自他共楽」の精神を胸に、お客様の会社の社員になった気持ちで日々改善活動に伴走しています。
すべての改善の基礎は5S活動です。5S活動は企業の生産性や安全、そして人材育成に大きく関わってきます。5Sという言葉自体は知っていても、細かい意味を知らない方も知らない方もおられるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、5S活動の本当の意味から実施の目的、進め方の手順などを詳しく解説します。生産性を向上したい、あらためて5Sについて学習したいという方はぜひ最後までご覧ください。
5Sとは、以下の用語の頭文字をとったものです。
それぞれの用語の本当の意味をおさえて、5S活動の理解を深めていきましょう。
1つ目は整理です。整理とは「いるものといらないものを区別し、いらないものを処分すること」という意味です。よくある間違いは、整理と整列を混同してしまうこと。整列は「あるものを綺麗に並べなおすこと」であり、ものを処分していません。
整理の本質はものを処分して減らすことなので、混同しないようにしましょう。不要なものであふれた職場は探す時間のムダや片づける時間のムダも発生しますし、作業スペースが確保できず生産性が下がります。まずは整理でものを減らし、職場の景色を変えましょう。
2つ目は整頓です。整頓とは「置き場を決めること」、もう少し細かく定義すると「必要なものを使いやすいように置き場を決めて明示すること」です。整理をすると必要なものだけが残ります。その必要なものを、誰でも使いやすいように置き場を決めることが整頓です。たとえば引き出しに「はさみ」と書いたシールを貼る。これも立派な整頓です。
整頓において絶対に覚えていただきたい言葉は「3定(さんてい)」です。これは定位=どこに、定品=なにを、定量=いくつ、の3つの定の頭文字をとったものです。どこになにがいくつあるか誰でもわかるようにすること、これが整頓です。
3つ目は清掃です。清掃とは「定期的に清掃をし、整理整頓(2S)の状態を点検すること」という意味です。文字通りの掃除の意味だけでなく、点検の意味も含むのがポイントです。よくある誤解は5Sイコール清掃、だと思っていることです。会社で5Sの時間、と聞いたら掃除の時間を想像する方が多いのではないでしょうか?5Sは5S、清掃はあくまで5Sの一部、と考えるようにしましょう。
定期的に清掃をすると、職場の異常に気付くことができます。例えば設備のネジが外れているのに気付いた、消火器の不備に気付いたなど。掃除をしつつ、普段と違う点がないか点検することを心がけましょう。
4つ目は清潔です。清潔とは「整理・整頓・清掃のしくみをつくり維持すること」です。一度だけ気合を入れてものを処分する、清掃を年に1度だけがんばる、では意味がありません。整理整頓清掃が日常的に維持されている状態、必要なものだけあり置き場が明示され定期的に清掃がされる状態をつくるのが清掃です。例えばものを捨てる日を決める、置き場所のラベルを交換する日を決める、清掃の当番表をつくる。これも立派なしくみです。
こういったしくみは職場の上長が変わったときに崩れがちです。やる気のある課長が異動してしまった、工場長が退任して新しい人が着任した。このような変化でせっかく保ってきた清潔が崩れる場合が非常に多いです。
5つ目はしつけです。しつけとは「ルールを定め、自ら守り守らせること」という意味です。しつけと聞くと時代的にも強い言葉のように感じますが、定義を知るとイメージが変わるのではないでしょうか。誰がルールを定めるか、がしつけのポイントです。5Sに関するルールは、職場の従業員自身が決めることをおすすめします。理由は明確で、自分たちで決めたルールは破られにくいからです。トップダウンで決めたルールはどうしても破られがちです。現場の人間は心のどこかで「作業しない人が決めたルールじゃないか」と思ってしまうものです。
もちろん活動時間の枠組みなど大きなルールはトップダウンで決めるべきですが、ものの置き場や清掃の順番などは従業員に主体性をもって決めさせるとよいでしょう。自分で決めたルールを守り、破る人がいれば相互に指摘しあう。これがトヨタの5Sにおけるしつけです。
5S活動を行う目的にはさまざまなものがありますが、この記事で注目したいのは以下です。
職場の正常と異常を視える化することで…
5Sの本質的な目的は、職場の正常と異常を視える化することです。言葉で見ると難解に感じるかもしれませんが、要は「職場のいつもと違うところを発見しやすくする」ということです。たとえばいるのかいらないのか不明の在庫がたくさんあった場合、今の在庫量が適正なのかは誰にもわかりません。普段から整理ができていれば、一時的にものが増えた際に「今はいつもより在庫が多いな、異常だな」と気づくことができます。
もっと簡単な例を挙げてみましょう。整頓により、共用のはさみ置き場が決まっていたとします。もし業務終了後にそこにはさみが置いていなければそれが「異常」と気づけます。もし整頓がされておらず自由な場所に置いていたとしたら、はさみの紛失には誰も気づけないでしょう。こういった職場の異常を視える化するのが5Sの本質です。これをふまえて目的を見てみましょう。
1つ目の目的は生産性の向上です。少し想像してみてください。ものが溢れ、どこに何があるかわからない汚い現場。必要なものだけあり、いつでも誰でもものが取り出せる整然とした現場。どちらの方が生産性が高いかは明白ですよね。ものを探す時間や取りに行く時間は生産性に直結します。単純にこれらの時間分だけでなく、最適な配置で一定のリズムで仕事ができることはさらなる生産性の向上につながります。
2つ目の目的は、職場の安全性向上です。単純にものが溢れていればつまずき転倒のおそれもありますし、在庫の長期保管、工具の長期使用による劣化は思わぬ災害を引き起こすこともあります。例えば油を使用する設備があったとしましょう。清掃がなされていない場合、ただ通常稼働で発生する汚れなのか、それとも設備に異常があり漏れ出た油なのかは一見区別がつきません。清掃だけとっても、職場の安全性に大きく関わることが理解いただけたでしょうか。
3つ目の目的は、職場の連携を深めることです。なぜ5Sで?と思われるかもしれませんが、5S活動を通じて職場のコミュニケーションは増え、連携が深まります。例えば整理をする活動をした場合。実際にやってみるとわかるのですが、「絶対に使うもの」「絶対に使わないもの」というのは意外と少なく、「いるかいらないかわからないもの」がたくさん出てきます。これは個人の判断で処分するわけにはいきません。
とある部署では不要でも、隣の部署では必要なものかもしれない。こういった捨てる判断をするのに、必然的に部署をまたいだ会話が必要になってきます。整頓で置き場を決めるときの会話、ルールを決める時の会話、5S活動にはコミュニケーションを深める機会が多く存在します。
5S活動をするには、押さえておきたいポイントがいくつかあります。ただやみくもに「5S活動をするぞ」と始めても、先にも述べたように掃除時間になってしまう可能性もあります。お伝えしたいポイントは複数ありますが、特に重要な以下の3つを本記事ではお伝えします。
まずは「なぜ5S活動をするのか」を関係者に周知することです。合わせて本記事にあるような5Sの定義を改めて伝えるのも効果的でしょう。収益面の効果はもちろん、5Sによって活動する作業者にどんないいことがあるか、を伝える必要があります。職場の見通しが良くなる、でもものを探す時間が減って残業が減る、でもなんでもかまいません。実際に5S活動をするメンバーにとってのメリットを伝えて、モチベーションを高めてもらいましょう。
捨てる基準をつくることは非常に重要です。多くの企業の5S活動でこの「捨てる基準」でつまずいています。ここをあいまいにして進めると、ものがあまり減らせなかった、という結果になりかねません。捨てる基準はさまざまありますが、ひとつは時間軸で判断するといいでしょう。①いま使うもの②いつか使うもの③ずっと使わないもの、この3つの分類が基本です。
いつかの基準は業種や職種によって異なりますが、まずはざっくりとこの3つに分けましょう。②いつか使うものをすぐさま処分する必要はありませんが、保管期限は明確にすべきです。ものにいついつまで、と記載し、その期限を超えたら③ずっと使わないものに格下げし処分する。付箋やペンで①②③を色分けするのも視覚でわかりやすくおすすめです。
5Sチェックシートを作成し、活動するチームごとに5Sの点数をつけるのが効果的です。整理で○点、整頓で○点…と5Sの項目ごとに点数をつけ、総合点を出すといいでしょう。前回から何点上がった、というように活動の頑張りが数字でわかりますし、逆に下がった場合も明確です。5S活動は部や課などチーム単位で活動することが多いでしょう。点数にすることで、いい意味での競争が生まれます。隣の課が○点だから来月までに超えよう、など5S活動のモチベーションにつながります。
5S活動によって生産性や安全性が高まる、職場の連携が増えるなどメリットをお伝えしました。では活動のデメリットはあるのでしょうか?結論、5Sをすること自体のデメリットはありません。しかし改善活動全般に言えることですが、活動開始時には教育のコストと時間のコストがかかります。
製造業サービス業問わず、業務が忙しい中で改善活動を始めるわけですから現場の従業員からの反発も予想されます。目的や必要性を理解してもらう教育コスト、活動時間確保のための一時的な残業などはどうしても必要になるでしょう。ただし、現状を打破するための改善活動です。一時的なコストは受け止め、長期的にいい会社にすることを目指して「途中でやめない5S活動」を構築しましょう。
本記事では、5Sの定義や目的、活動のポイントを詳しく解説しました。5S活動は実施そのものが目的ではなく、あくまでいい会社をつくるための手段です。
5Sはすべての改善の基礎です。まずはいらないものを減らす「整理」の第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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