監修者
安田 幸治
OJTソリューションズで、 お客様の改善活動と人材育成をサポ―トするエグゼクティブトレーナーをしています。トヨタ自動車にて42年間の現場経験、管理職の経験を経てOJTソリューションズに入社しました。モットーは「仲間に感謝」。時に愛犬に癒されながら、日々お客様の現場で感謝・改善・努力の毎日を過ごしています。
トヨタの部下育成の特徴のひとつに、ひとくせある部下から優先して育てる、ということがあります。どのような企業でもひとくせあって扱いにくい部下は存在しますが、そのような部下を先に育てれば組織を引っ張る優秀な人材となり、組織力の向上につながるという考えがあるからです。本記事ではトヨタの部下育成の考え方や具体的な指導方法について紹介します。部下との接し方や育成にお悩みの方はぜひご覧ください。
どのような企業や組織でも、成果をどんどん出して組織を引っ張っていく人もいれば、なかなか組織や仕事になじめず成果を出せないでくすぶっている人もいます。ほとんどの企業では前者を「できる人」として評価して重宝します。もちろん「できる人」を正しく評価して重宝するのは大切ですが、そのやり方だけでは組織力は頭打ちになってしまいます。
トヨタではあえてひとくせある、扱いづらい部下から優先して育てることに注力しています。その理由は、上司の指示や考え方にかみついてくるような人は、自分の信念を持っているためです。ひとくせある部下を育てれば、組織を引っ張る優秀な人材となり、組織力が高まると考えています。
ひとくせある人と言ってもさまざまなタイプが存在しますが、孤立したり反発したりするなどの問題を抱えている人に対しては、まず普段抱えている不平不満を聞いてあげるのが先決です。問題となる行動に対して上から押さえつけてしまえばさらに心を閉ざしてしまいますが、きちんと相手の話を聞いてあげることで次第に心を開かせられます。
上司にかみついてくる人や言われたことを実行しない人は、ある意味心のSOSを出している状態とも言えます。上司からすれば無理やりにでも指示に従わせたくなりますが、まずは心の声を聞いて信頼関係を築くことが第一です。
多くの組織では上に立つ者を上司、その下に立つものを部下と位置づけています。あくまで役割の違いであり、どちらが偉い、というものではありません。しかし、現実的には上司と部下を命令系統をこえた上下関係としてとらえている方も多いでしょう。そのため、上司が持つ立場や権力を武器に一方的に指示を出せば、多くの部下は「やらされ感」を感じてしまいます。
先述したひとくせある部下であればなおさらです。やらされ感どころか、強い反発を招いてしまうかもしれません。ですので、一方的な指示を出すのではなく、相手に理解や納得をさせるコミュニケーションの取り方が必要です。こうすることで、どんな部下であれひとつひとつの仕事に意味を見出し、積極的に必要な業務をこなすようになるはずです。
トヨタの改善は、現状を疑うことからはじまります。経験のある上司やリーダーは一方的に指示をしてしまいがちですが、現場の理解を得られないまま現状のやり方を変えることは困難です。そのような場合は客観的なデータや事実を示してあげることが有効になるでしょう。
例えば、改善前と改善後の動きを録画して見せると何がムダであるかが客観的に理解でき、納得したうえで改善に取り組めるようになります。言葉で説明するだけではなく、誰でもわかるよう視える化してこそ、はじめて理解や納得ができることも多いです。
以前トヨタではオーストラリアやインドネシアの工場で、現地の従業員に仕事内容を指導する機会がありました。海外の従業員だからこそ理解や納得してもらうことが重要でしたが、そのためには地道な努力が必要でした。トヨタに対する偏見や知識がないため、ある意味指導しやすい一方で、相手が納得するまで伝えなければ、手を抜いたり自己流でやってしまったりするなどの光景も見られました。
言うなれば全員がひとくせある部下のような状態です。
そこで、トヨタの「標準」を徹底的に守ってもらい、標準作業に疑問を抱くたびに「お客様によい商品を届けるために必要な作業だ」と、根気強く言い続けました。また、標準を「守りやすくする改善」も一緒に進めることで賛同者を増やしていきました。
そのうちに従業員全員が納得でき、工場のラインがスムーズに動くようになりました。理解や納得させることを地道に続ける努力こそが、高品質なモノを生み出します。
とあるトレーナーがトヨタで経験したエピソードですが、自分の担当するチームが車を作っていたとき、部品を工具で締める作業を前工程の人が1日に何度も忘れていました。すると部下の1人がトレーナーに対して「ちゃんと前工程の人に指導しているのか?」と怒りだしました。その部下は、思ったことは上司だろうとはっきりものを言うタイプの部下です。
しかし、トレーナーは忙しく、前工程にはきちんと注意もしていたため、「うるさい!ちゃんとやっている!」と怒鳴ってしまいました。その結果、部下は職場放棄をして自宅に帰り、そのまま3日間会社に来ませんでした。部下が欠勤している間、結局トレーナーがその部下の穴埋めをしなければならず、理解・納得の重要性に気付いたそうです。
今回の事例では、前工程の人に部品の締め忘れが後工程の人に迷惑がかかることを伝えるとともに、なぜ部品を締め忘れてしまうのか考えてもらうことが重要でした。
トヨタでは、孤立したり上司にかみついたりするようなひとくせある部下を優先して育てるようにしています。その理由は、ひとくせある部下から育てれば組織を引っ張る優秀な人材となり、組織力の向上につながるためです。また、ひとくせある人物に限らず、部下を育てる際は以下のポイントを大切して指導を行っています。
どのような職場でもひとくせある人は存在します。多くの企業ではそのような人には目を背けがちですが、真正面から向き合うことでよい組織となるはずです。部下との接し方や育成に悩んでいる方は、ぜひ今回紹介した方法で向き合ってみてください。
RELATION
PAGE
TOP