監修者
三尾 恭生
OJTソリューションズで、お客様の改善活動と人材育成をサポ―トするエグゼクティブトレーナーをしています。トヨタ自動車にて42年の現場経験、管理職の経験を経てOJTソリューションズに入社しました。座右の銘は「不易流行」。変える勇気と変えない勇気を持つことが大事だと信じ、現地現物でお客様と伴走しています。
部下がトラブルや不良を起こした際に、多くの管理監督者はミスをした本人を叱責するのではないでしょうか。しかし、トヨタではトラブルや不良は部下の責任ではなく、しくみをつくれていない上司の責任であると考えています。
本記事ではトヨタが大切にしている「人を責めるな、しくみを責めろ」の考え方を紹介するとともに、問題解決の際に必要不可欠な「標準」の概念も説明します。管理監督者が徹底すべき仕事の基本である「5大任務」や、部下への接し方もまとめているので、よりよい職場環境をつくりたい方はぜひご覧ください。
職場内で必要な業務で部下がトラブルや不良を起こした場合、多くの管理監督者は当事者に対して叱責するでしょう。特に売上や顧客との信頼関係に直結するような大きなミスであった場合、怒鳴ってしまう人もいるかもしれません。
しかし、トヨタの上司は明らかに部下の失敗でも、本人に対して厳しく叱責することはありません。例外として安全に関わる場合、自分や仲間を大きく危険にさらす行為をした場合はその場で叱責することもあります。こういった例外を除き、基本的にはどんな場合でも部下を責めずに、どうすればミスをしないのかを丁寧に説明します。
トヨタの上司は「標準」やしくみを整備していない自分が悪いとし、部下の失敗は上司の責任であると考えています。
トヨタの生産ラインには、「アンドン」と呼ばれる異常発生を表示装置に点灯させるしくみがあり、作業スペースには紐が張られています。そして、何か異常が発生したときには、その紐を引っ張ることで異常を知らせて、ラインを止めるのがルールです。
このように「異常が発生したら、機械やラインをただちに止める」しくみを、トヨタでは「自働化(ニンベンのついたじどうか)」と呼んでいます。
もし問題が起こった状態でラインを動かし続けると、問題の真因(真の原因)を絞れず、うやむやになる可能性があります。しかし、問題が発生した時点でラインを止めれば、「A工程とB工程の間に真因がありそうだ」と、ある程度見当が付きやすいでしょう。
また、今の時点で問題が起こっているということは、前工程までに真因があると予測できるため、ひとつ前の工程に戻り、問題解決のヒントを探し出せます。
トヨタには「標準」という考え方があります。トヨタの「標準」とは、「よい製品を、誰でも同じように、安全に生産するための判断のよりどころや、行動の目安となるもの」です。
「標準」を守れば誰が作業をしても同じ成果が得られるようになっているので、バラつきはなくなり、仕事の質も高まります。トヨタでは作業の「標準」が明確に定まっているからこそ、トラブルや不良を未然に防ぎ、起きてしまった場合も問題のありかを素早く特定できています。基本的には標準の通りに作業すればトラブルや不良は起こりえないため、「どこで標準以外のことが起きたか」を特定すればいいからです。
以下の記事ではトヨタの「標準」を詳しく解説しています。標準をつくる際に記載すべきポイントもまとめているので、ぜひご覧ください。
標準をつくる重要性とは?メリットや記載すべき3つのことも解説
「標準」をつくるのは上司の仕事です。
「標準」を記載した標準書があれば、上司は部下に何度も同じことを教える必要はなく、部下も自分で判断できるようになるでしょう。標準書には作業要領書・作業指導書・品質チェック要領書などの種類が存在しますが、いずれも各職場で少しずつつくり上げられるものです。
なお、標準書は誰が見ても理解できるような記述をしなければなりません。どれだけ細かく書いてあっても人によって理解度に差が生まれてしまうようでは「標準」にはなり得ません。
上司がつくった「標準」を部下が守れない場合は、そもそも「標準」に問題があると考えます。
「標準」は誰もが作業を安全かつ確実に遂行できるように考えてあるため、万が一守れなかった場合には怪我や事故につながるかもしれません。
管理監督者は常に「標準」が適切であるか、改善の余地はないかを確認するとともに、部下がしっかり守れているかをチェックしましょう。よくある落とし穴は、標準を一度整備して終わりにしてしまうことです。たとえば原料が変わったとき、もっと良いやり方が見つかったとき、こういった場合は標準を更新することが重要です。標準は常に進化させていくもの、と考えましょう。
トヨタには管理監督者に対する5大任務があります。5大任務とは管理監督者が徹底すべき仕事の基本を指し、以下の5つの項目にわかれています。
管理監督者はこれらを守れているかチェックしながら「標準」を作成します。また、必要があれば適切なものに変更していくなど、常に5大任務の視点を持ちながら標準と向き合う姿勢が必要です。
それぞれの項目をクリアできれば働きやすい職場となるだけでなく、生産性や部下のモチベーションも向上します。
誰でもトラブルや不良を起こしたときにはなかなか上司に報告できないものです。しかし、トヨタではバッドニュース・ファーストといって、悪い報告こそ優先して伝えることが、ルールになっています。
これも先ほど紹介した「紐を引く」と同じで、問題が大きく・複雑化しないうちに手を打とうという考え方です。
バッドニュース・ファーストを実践するためには、上司が悪い報告を受け止める度量が必要です。度量が十分でなく「人を責める」上司だった場合、部下はモチベーションも低下しますし、最悪の場合バッドニュースを隠すようになってしまいます。
悪いニュースでも歓迎する発想に転換することで、組織の風通しがよくなり、問題にもすばやく対応できる職場になるでしょう。
トヨタでは問題を発見した人に対して感謝の言葉を述べる習慣があります。上司に求められるのは部下のせいにしないことや、「あなたのおかげで問題が早く解決できて助かる」といった気持ちを持つことです。
失敗した事実は誰でも言い出しづらいですが、当事者を責めることなく問題を引き起こした原因にフォーカスすることで、問題を隠さず伝えやすい環境になります。
トラブルや不良を起こした人間に対して怒るのではなく、部下が失敗してしまうようなしくみを問題視する考え方が、トヨタの「人を責めるな、しくみを責めろ」に集約されています。
トヨタの「人を責めるな、しくみを責めろ」は、トラブルや不良は部下の責任ではなく、しくみをつくれていない上司の責任であるという考え方です。
管理監督者は仕事の基本である5大任務の視点を持ち、「標準」をつくったうえで部下がそれらを守れているか、改善の余地はないか常に考え続ける義務があります。
部下の指導やトラブル、不良に悩んでいる管理監督者の方は、ぜひ今回紹介した問題や人との向き合い方を実践してみてください。
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