監修者
丸山 浩幸
OJTソリューションズで、お客様の改善活動と人材育成をサポートするエグゼクティブトレーナーをしています。大阪府出身、トヨタ自動車の品質管理にて41年の現場経験を経て、OJTソリューションズに入社しました。お客様の現場では「この改善、よかったで!」ともう一声の思いやりを大事に、仲間意識が高まるような改善活動ができるよう日々伴走しています。
どのような企業でも起こりうる職場問題を、トヨタでは独自の「職場問題の扱い方」を用いて解決しています。職場問題とは主に人間関係のトラブル、従業員の健康面の問題、業務の過剰な負荷や仕事の好き嫌いで起こる生産性の低下などを指し、それらを放っておくと事故や従業員の離職につながりかねません。
本記事ではトヨタの職場問題の扱い方から対処方法まで細かく解説します。トヨタの職場問題の扱い方を実践すれば、職場問題の起こり方や流れを理解したうえで、問題となっている点を早期に見つけ出せます。また、4つの段階に分けられた対処により、再発防止もしやすいため、職場問題にお悩みの方はぜひ実践してみてください。
職場問題とは、業種や会社の規模に関わらず起こりうる問題で、具体的には以下の3つが挙げられます。
職場問題は製造やサービスなど本来の業務以外で起こる問題を指し、解決すべき課題です。
例えば、職場が常にピリピリしていたり特定の従業員同士の仲が悪かったりするなどは人間関係のトラブルにあたります。また、業務に対するストレスや負荷が大きいために、従業員が体調不良になってしまうケースも多く存在します。
人には得意・不得意があるため、それぞれの業務に対する好き嫌いが出ることは珍しくありません。職場問題を放っておくと生産性が低下するだけでなく、事故や従業員の離職につながってしまうこともあります。
職場問題は、以下のような流れで発生します。
「予期」の段階では、目に見える問題はまだ起こっていないものの、問題の種になりそうな職場の変化が起こりつつある状況を指します。例えば、勤務時間の変更や上司の異動などが問題の「種」として挙げられます。
「感知」は、職場で普段とは違う要素が見出された段階を指します。例えば、従業員の挨拶の声が小さくなった、いつも早く来ている従業員が始業ギリギリに来るなどが挙げられます。
「向かってくる」は、問題が表面化し、明らかに問題が起こっていることに従業員全員が気付いた状態です。従業員が部署異動を申し出るなど具体的な行動をするのが特徴です。
「飛び込む」は、従業員の無断欠勤など今すぐに自分が飛び込んで対処する必要がある段階を指します。
職場問題は早期に発見すればするほど、早く解決できます。トヨタの職場問題の見つけ方を以下の3点にまとめました。
これらに変化が見られたら、すでに問題の「芽」が出てきた可能性があるため、注意が必要です。
態度や服装は目に見える変化としてとらえやすいため、日頃からチェックしておくべきです。
例えば、従業員の顔色が悪い、従業員が誰とも口を聞いていない、突然作業着の乱れが見られるようになったなどの変化が現れたら要注意です。これらは職場問題の芽として早急に対処する必要があります。
これまでは真面目に出勤していて、勤怠状況に何の問題もない従業員の出勤状況が変化した場合は注意が必要です。
遅刻が増えてきた、突然の欠勤が増えてきたなどの状況は従業員の心理状態に変化があったことを表します。突然の遅刻や欠勤の裏には何か理由が隠されていることがほとんどです。
優秀な従業員ほど変化を発見しやすいのが作業ぶりです。
普段は100点や120点の成果を挙げている従業員が80点の完成度でしか作業ができなくなったような場合、モチベーションや集中力が下がっている可能性があります。また、安全ではない行動が増えたり何かに焦っているように見えたりするような場合にも変化としてとらえるべきです。
本来であれば「感知」の段階で職場問題を見つけるのが理想ですが、「向かってくる」、「飛び込む」まで進行してしまった場合は、一刻も早く手を打たなければなりません。
トヨタでは職場問題を以下の4つの段階に分けて扱います。
また、ゼロ段階目の項目として問題解決のゴールをどこに設定するかを明確に決めておくことが挙げられます。ゴールを明確に設定すれば管理者の言動にブレが起こらず、そのあとの段階をスムーズに進められます。
まずは、起こったことのいきさつをすべて正確に把握するところから始めます。中途半端な事実確認のまま、自分の想像だけで対処の判断を決めてしまうと状況悪化につながりかねません。
問題となっている従業員の「人となり」と「事実」の2つを正確に理解・把握すれば、適切な判断を下せます。具体的には、「人となり」は「性格・職歴・関係性」、「事実」は「いつ・どこで・どのような・なぜ」などの要素が挙げられます。
この2つを把握するためには、問題の関係者へのヒアリングがかかせません。ヒアリングの際には本人が話しやすい雰囲気を作るために、雑談からコミュニケーションを始めたり明るい雰囲気で接したりするのも重要です。問題の程度にもよりますが、あまりに重い空気でヒアリングをはじめてしまうと相手は委縮して事実を隠してしまう場合もあります。
自分ひとりで事実をつかみきれないと判断した場合には、先輩や同僚に協力してもらい、人づてに事実を把握するのもひとつの方法です。特に性格や人となりの部分は、距離の近い同僚の方が正確に把握している場合も多いでしょう。
第一段階でヒアリングした事実を整理して、適切な対処方法を考えることが第二段階です。
ここで注意すべきなのは、過去の事例や自分の想像から早合点をしないことです。特に、前にも似たような職場問題を解決したことがある場合には、つい「同じ方法でうまくいく」と思いがちです。
しかし、まったく同じ問題は存在しません。それぞれの問題に合った適切な対処方法を実践する必要があります。場合によっては、同じ立場の同僚や上司、人事部と情報を共有するのも有効です。
ひとつの考えよりも複数の考えや意見を参考にしたほうが、最適な対処方法を考案できるはずです。第一段階でつかんだ事実を整理し、早合点せずに複数の意見を参考にすれば問題解決に近付けるでしょう。
第一段階で把握した事実や他の人の意見をもとに具体的な対処方法が決定したら、実行に移します。
ひとりで対処できるのか、同僚や上司、部下の応援が必要なのかを適切に判断し、正確な対処ができる環境を整えましょう。そもそも問題が起きて対処する場面です。管理職の立場であれば、なんとか自分一人の力で解決したい、他の人に助けてもらうのは申し訳ない、と思うこともあるでしょう。しかし優先すべきは「職場問題の解決」です。遠慮せず、当事者のためを思って応援を求めましょう。
対処する際は、一貫性をもって発言・行動することが重要です。例えば、昨日はAと言っていたのに、次の日にはBと言ってしまうと当事者を混乱させてしまいます。
また、可能であれば第二段階の「よく考えて決める」の時点で、協力者となりそうな人物に協力してもらうかもしれない旨を伝えておくとスムーズです。「今こういう問題が起きていて、もしかしたら対処の場面であなたの力を貸してもらうかもしれない」。こう伝えておくだけで、協力者も心の準備ができます。
対処が終わったら、対処後の従業員の表情や行動を見守って様子を見るのが最終段階です。
段階を踏んで適切な方法を導いて実行できた場合、そこで安心してしまい、実行した時点で「終わり」にしてしまうケースがあります。
しかし、「やりっぱなし」では再度同じ問題が起こる可能性があります。対処したあとも当事者をしっかり観察し、問題が解決できているか、その後の様子はどうかを確認する必要があります。「調子はどう?」「困っていることはない?」など、問題に関係ない話題から積極的にコミュニケーションを取れば、結果的に問題の再発防止につながります。
このようなコミュニケーションを「解決の確認」と呼び、1回だけではなく複数回行うのが望ましいです。
もし、うまく解決できなかったり問題が再発したりした場合には上記で挙げた4つの段階のうちどこかに間違いがあるため、第一段階の事実確認に戻って対処方法を練り直しましょう。
人間関係のトラブルや従業員の健康面の問題、業務の過剰な負荷や仕事の好き嫌いで起こる生産性の低下などは「職場問題」として放置すべきではありません。
トヨタでは今回紹介した以下4つの段階を「職場問題の扱い方」として、重大な問題につながる前に解決しています。
着実に段階を踏んで問題に向き合えば、早期かつ適切に職場問題を解決でき、再発防止にもつながります。職場問題との向き合い方や対処方法にお悩みの方は、ぜひトヨタの職場問題の扱い方を実践してみてください。
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