監修者
丸山 浩幸
OJTソリューションズで、お客様の改善活動と人材育成をサポートするエグゼクティブトレーナーをしています。大阪府出身、トヨタ自動車の品質管理にて41年の現場経験を経て、OJTソリューションズに入社しました。お客様の現場では「この改善、よかったで!」ともう一声の思いやりを大事に、仲間意識が高まるような改善活動ができるよう日々伴走しています。
チームや組織が成果を上げるためには、メンバー一人ひとりが力を発揮できるようにしなければなりません。そのために、リーダーはメンバーに対して確実な仕事のやり方を身に着けさせる必要があります。トヨタでは、「教えたことができないのは、覚えるように指導しなかった教える側が悪い」と考えます。
「教えること」を重視するトヨタには、リーダーに求められる技能のひとつとして「TJI(Toyoya Job Instruction:仕事の教え方)」が存在します。これは、メンバーに仕事のやり方を効果的に教えるためのメソッドです。本記事では、TJIの仕事を確実に教えるための4段階の手順と6つの基本を解説します。仕事の教え方にお悩みの方はぜひご覧ください。
トヨタにはメンバーに仕事のやり方を教えるときの効果的な方法をまとめた「TJI(仕事の教え方)」が存在し、これに沿って仕事を正しく効率的に教えています。
このTJIを用いた教育を滞りなく進めるためには、リーダーとメンバーが事前に関係を深めておくのが重要です。なぜなら、関係性が構築できていないと、メンバーは気軽に質問もできず、理解度や納得度が低いまま仕事を進めてしまい、不良や生産性の低下につながる可能性もあります。このような事態にならないためにも、リーダーとメンバー相互の理解をはじめ、信頼関係の構築をしておくのがTJIの前提として大切です。
トヨタのTJIは、実際に仕事を教える前の準備から始まります。はじめに、教えるべき作業を一連の流れとして細かく分類し、手順や注意点である「急所」をまとめた「作業要領書」を作成します。これは現時点で最も安全で良いやり方を「標準」として見える化したものになります。
作業要領書には、左から順番に作業手順・急所・急所の理由・図解が一覧で記載されており、「どうやると安全」「どうなったらOK」など、誰が見てもわかる内容にまとまっています。仕事の要点をまとめ、伝えるのは簡単ではありませんが、作業要領書を用いれば仕事の効率が上がるだけではなく、誰もが安全かつ同じ品質で作業できるようになり、不良やミスも減らせるはずです。
TJIが想定しているのは、製造現場で決められた作業をしっかり習得してもらうことですが、これはオフィスやサービス業でも重視すべきです。作業の中身を分析して、もっとも効率的で品質不良が起こらない作業の仕方を「標準作業」として文章化すれば、チームの生産性向上につながります。また、TJIの最終目的が、最善の行動を迷いなくスムーズにとれるようになることと理解すれば、さまざまなケースで使えるはずです。
製造不良が多い会社には、正しくわかりやすい作業要領書がない場合が多いです。TJIでは以下の4点を教える前の準備として挙げています。
作業要領書には単に作業手順を記すだけではなく、作業手順において注意を払うべき要点、すなわち「急所」と「急所の理由」も必要です。急所を守ると不良品を出すことなく品質の高い作業ができるのはもちろん、ケガなく安全な作業や、やりやすい環境・姿勢で効率よく作業も実現できます。
例えば、「材料Aを左手で取る」という手順があったとすれば、急所は「材料Aの●印を上にして」、急所の理由は「部品Bが正しく差し込まれたのを目で確認できるから」といった内容を記載します。「作業分解」で作業をひとつひとつ手順化し、急所を明示しその理由を表すことで、各手順の意味や重要性も理解できるはずです。
教える準備の後は、以下の4つの段階を踏んで仕事を教えます。
第1段階から第4段階までを順番におこなうことで、効果的に仕事を正しく教えられます。また、教えたら教えっぱなしではなく、教えた後もしっかり習得するまでは、親身になってフォローするのがリーダーの務めです。
特に、先述した「急所」と「急所の理由」を理解させ、問題が起こったときにどのような行動を取るのが最善なのかを判断する能力も身に着けさせるのが重要です。多くの職場では、「作業を説明する」しか実施できていないケースがよく見られます。トヨタでは確実にメンバーに仕事を覚えてもらうために、どのようなことに配慮しているか段階別に説明します。
初めて習う仕事を前にして、多くのメンバーは緊張しているはずです。そのため、まずは教えたことをスムーズに覚えられるよう、自己紹介をさせたり当たり障りのない会話をしたりするなどをしてリラックスしてもらいましょう。そして、これから教える内容についてどれくらいの知識や経験があるかを聞きます。
もし過去に似たような仕事の経験がある場合や一定の知識を持っている場合には簡略化して教えても良いでしょう。逆に、想定よりも知識や経験のレベルが低い場合は、教える内容をさらに嚙み砕いて細かいところまで教え、教わる側に「ムリ」が生まれないようにします。
そして、これから教える業務が仕事全体でどこの位置付けでありどのような価値を持っているのかを話して理解してもらいます。ここで、どのような小さな担当業務であっても、「仕事全体の価値に貢献している」と伝えるのが大切です。業務の重要性を教えれば、スムーズに仕事を覚えてもらえるうえ、仕事に対する責任感も生まれます。
第2段階では、実際にやってもらう作業を説明します。まずは作業要領書に沿って、実際にリーダーが作業をやってみせます。初めは手順だけを言いながら、作業項目ごとに区切って、ハッキリした言葉と動作で説明しますが、常に教わるメンバーから自分の動作が見えにくくないか立ち位置と姿勢を確認してください。また、ゆっくり間違いなくやるのも重要です。
次に、急所と急所の理由を言いながらやってみせます。第2段階のなかで特に重要なステップで、ミスやトラブルを起こすことなく効率的に仕事ができるようにするため、急所の正体と理由を言葉と動作で強調しながらやってみてください。説明が終わったら、わからなかったことはないかメンバーに質問しますが、決して威圧的な言い方をしてはいけません。事前に聞き取ったひとりひとりの知識・技術レベルに合わせた言葉や教え方をする必要があります。
第3段階では、第2段階でやってみせた動作のみをメンバーにやらせます。もし間違いがあれば、メンバーが自信をなくさないような言い方ですぐに正しい動きに直してください。このときにうまくできていることがあればほめるのも大切です。
動作が1人で完全にできるようになったら、次は手順を言いながら作業をしてもらってください。言葉に詰まった場合は、もう一度説明してやり直してもらうことで着実に仕事を身に着けさせることができます。最後に、急所と急所の理由を言わせながら作業をさせます。
このステップは特に重要で、完全に言えるようになるまで続けることで、不良やミスを減らすことにつながります。表面的な作業ができるのは当たり前で、その作業の理由を理解しているかどうかが、安全作業や品質にも影響してきます。
第4段階に突入する時点で、すでに仕事の内容を覚えて急所についても理解しているはずですが、まだ一人前に仕事ができる状態とはいえません。そのため、メンバーの仕事の現場に行き、仕事ぶりを確認するのがリーダーの役割です。徐々にスキルを上げていってもらい、自信や責任感をもって作業ができるようにフォローします。教えた作業手順や動作を守っているか、つくったものがきちんと仕上がっているかを確認し、習熟度が上がっていけば、見に行く回数を徐々に減らしてください。
メンバーに教えた後にも疑問が出てきたら、すぐに担当者に質問するように言っておくのも大切です。すぐにメンバーの疑問を解決できるよう、指導担当者の代行者も決めておいてください。どのような質問にも丁寧に何度でも答え、仕事が一人前にできるようになるまで親身になってフォローし、面倒を見るのがトヨタ式の「教える」です。
次に、教える方法で大切な6つの基本を紹介します。
教える内容をただ説明するだけでは教えたことにはならず、教えられたメンバーがその仕事内容について理解し、やり方を覚え、一人前に一人で実行できるところまで見届けて初めて「教えた」といえます。教える方法として欠かせない6つの基本をひとつずつ整理していきます。
覚えてもらう仕事内容は、大きな声ではっきりと聞こえるように話します。モゴモゴとこもった声で話したりあいまいな表現をしてしまったりすると、メンバーに正しく伝わらず、仕事の正確な理解につながりません。また、特に重要な箇所や間違いやすいポイントは、意識してゆっくり話すのが大切です。ときには例えや言い換えも使い、理解できているかどうか、常にメンバーの反応を見ながら進めましょう。メンバーがわかっていない様子なら、わかるところまで噛み砕いて説明しなければなりません。
メンバーに教える前に、相手がわかりやすいよう図やイラストを用いて伝えたい内容を紙などにまとめておきます。教わるメンバーが理解しやすい内容にするのが重要で、紙にまとめる内容はメンバーが持っている知識や理解度に合わせて調整してください。専門用語や略字、英語の表記が適切であるかも留意すべきポイントです。
リーダーや教育担当者は、よりメンバーの理解を深めるために正しい作業手順をゆっくりと、区切りながらやってみせてください。このとき、常にメンバーから見やすい場所や角度で実演すると、見間違いが起こりにくく、その後の仕事の精度にもつながります。実演する際は、自分がメンバーの立場になったことを想定して、見やすく・理解しやすいように実演してください。
実際にメンバーにやってもらう業務を実演した後は、教えた作業手順をメンバーにやらせてみます。このときに間違いがあればすぐにその場で指摘して直すことで、間違ったやり方で覚えてしまうことを防ぎます。また、やってみせる場合も同様ですが、できるだけ実際の作業場所で、実際の設備を使ってやらせるようにしてください。事前にリアルな体験をすれば、実際に仕事に入ったときのイメージの乖離が起こりにくくなります。
学校で教師が学生に板書をしながら授業をするのと同じように、仕事のポイントを書きながら説明するのも有効です。このとき、ポイントが漏れなく伝わるようできるだけ箇条書きにすることと、メンバーが理解しやすいよう図やイラストを用いてみてください。要点を細かく示しながら順序よく書いていくことで、メンバーの頭の中を整理しやすくスムーズに仕事を覚えてくれます。
きちんと教えたつもりでも、メンバーが正しく理解しているとは限りません。そのため、教えた作業内容をしっかり理解したか、メンバーに作業手順を言わせてみてください。特に作業工程の順番が入れ替わっていないか、作業上の重要ポイントをきちんと把握しているかをチェックします。また、メンバーが話しているときは、口を挟みたい箇所がでてきてもぐっとこらえて聞き役に徹するのも大切です。
仕事を教える際の6つの基本的な方法を紹介しましたが、どれか1つのやり方だけではなかなか教えきれないうえ、メンバーが仕事内容を正しく理解できない可能性があります。そのため、教わる相手の経験・技能レベルに合わせて、6つの教える方法を組み合わせて柔軟に教え込むことが大切です。
また教える際には、教える自分と教わる相手のギャップが大きい箇所にフォーカスして、教え方の手法を組み合わせるのも効果的です。例えば、教える相手が海外の人であれば、意識しなければならないギャップは、言語や習慣だけではなく根本的な考え方にも範囲を広げる必要があります。
あるトレーナーは、担当企業の海外拠点で指導をした際に、やってみせたり、イラストを見せたりする方法を多用したそうです。また、習慣や風土の違いについては、仕事以外でも接点を多く持ち、お互いの理解を深めることで習慣や考え方のギャップを埋めたと言います。
トヨタには、リーダーに必要な技能の一つとして「TJI(仕事の教え方)」という手法が存在します。メンバーに仕事を効果的に習得させることが目的ですが、これを実践するために、まずは教える側と教わる側の関係性を深めることも大切にしています。
TJIには「教え方」として4段階の手順と6つの基本的な方法がまとめられており、教える前の準備や教えた後のめんどう見についてもメソッド化されているのが特徴です。仕事の教え方で迷っている方は、ぜひ今回紹介した仕事の教え方を実践してみてください。
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