監修者
見城 吉昭
OJTソリューションズで、お客様の改善活動と人材育成をサポ―トするエグゼクティブトレーナーをしています。トヨタ自動車の機械加工にて39年の現場経験を積み、OJTソリューションズに入社しました。趣味の読書や旅行で自分の世界を広げながら、現場で働く人の声を大事に「働く人の心のための改善」に日々取り組んでいます。
「トヨタのめんどう見」とは、「ほめる」「しかる」「見守る」の3つを用いて部下とコミュニケーションをとる方法です。辞書に載っている「面倒見」とは少し意味合いが異なるため、正しい定義や実践方法を理解する必要があります。
めんどう見を実践すると、それぞれのメンバーの技術や意欲が向上したり、「仕事」の枠を超えて柔軟かつ生産性の高いコミュニケーションが可能になります。本記事ではめんどう見の具体的な定義や取り入れ方をはじめ、導入するメリットを解説します。日々のコミュニケーションを通じてメンバーの士気を高めたいと考えている方は、ぜひ最後までご覧ください。
トヨタで伝統的に受け継がれるめんどう見は、在籍するすべてのメンバーが安心して仕事に取り組めることを目標に導入されています。ひとりひとりのメンバーを大切にし、信頼関係を築きながらサポートをおこなうことで、成果を出し続けられる強い職場づくりを実現しています。
具体的なめんどう見の方法は以下の3つです。
この「ほめる・しかる・見守る」精神の原点は、豊田綱領にあります。豊田綱領とはトヨタの創始者である豊田佐吉の考え方をまとめたものです。豊田綱領のなかに「温情友愛の精神を発揮し家庭的美風を作興すべし」という一文があります。部下を家族の一員ととらえるほど親身になって育てる、この具体的な行動としてめんどう見が脈々と受け継がれています。
「ほめる」は部下のやる気を引き出す大切なコミュニケーションです。管理職は成果や数字を見てほめる方が多いと思いますが、数値だけを見るほめ方では相手に響かず、やる気を引き出すことは難しいです。
ほめる際には、メンバーの成長や現場の変化を見て適切な言葉をかけるとメンバーのやる気につながり、結果的に「強いチーム」へと導けます。現場の変化を日々観察し具体的によかったところをほめることで、メンバーから「こんなところも見てくれていたのか」と信頼を得られます。
人は誰でも、自分を見てくれている・理解してくれていると感じれば、相手を信頼して心を開きます。部下からの信頼を得られ、強いチーム作りができていれば結果として生産性向上につながるでしょう。
部下をしかった経験は誰しも持っていますが、しかる際には「攻め心のない厳しさ、なれ合いでない優しさ」を意識してみてください。
部下の失敗に対して強く責めてしまったり、攻撃的になってしまった経験はありませんか。これらは自分の「感情」が強く出ている状態であり、「しかる」ではなく「怒る」です。しかる際にはあくまでも相手の成長を第一に考えて言葉を発する必要があります。
また、しかる場面や関係性で適切な言葉選びをするのも大切です。例えば会議中にしかる場面が出てきたとき、関係性によって現場でしかるべきなのかあとで個別にしかるべきなのか異なります。
しかる内容も留意しておきたいポイントで、特に安全に関わるシチュエーションでは強い言葉でしかることもやむを得ないでしょう。ただし、どのような場面や関係性にしても相手や現場を日々しっかり観察していることが大前提です。
「見守る」は部下の成長を第一に考えて、相手を信じるコミュニケーションです。
もちろんただ見守っているだけではなく、責任は自分がとり、失敗したらフォローをする意思をきちんと部下に伝える必要があります。「放置する」「やりたいようにやらせる」と混同しやすいですが、「見守る」には部下が困っていたらすぐに手を差し伸べられるよう準備しておくことも含まれています。
いざというときすぐにフォローできるようにするためには、常に現場を細部まで把握する必要があります。現場を正しく把握できていれば、部下が困っていてもすぐに気付けて適切なフォローが可能です。
「面倒見」という言葉はよく使われますが、トヨタの「めんどう見」とは少しニュアンスが異なります。めんどう見は在籍するすべてのメンバーが安心して仕事に取り組める現場を目指しています。
仕事をするにあたって、不安や疑問を抱えているメンバーもいるかもしれません。ひとりひとりを大切にし、そういった不安や疑問に寄り添うことで、メンバーがいきいきと仕事に取り組めるようにするのがトヨタのめんどう見です。
強い信頼関係の構築を目標としているため、最終的には仕事の話だけではなく適切な範囲のなかでプライベートな悩みも聞けるような関係性が好ましいです。ただ「上司として面倒を見る」「技術を育てる」のではなく、意欲向上やメンタルケアも求められる点が「面倒見」との違いです。
トヨタにはめんどう見で人を育てる仕組みが多くありますが、そのなかの2つをご紹介します。
会社の制度としてしくみ化をすることで、属人化せずによいコミュニケーションの取り方が伝承されていきます。
1つ目は職場先輩制度で、新入社員に対して2、3年上の先輩が「職場先輩」に任命されます。職場先輩はただ仕事内容や職場のルールを教えるだけではなく、仕事からプライベートの悩みまでなんでも聞ける先輩として継続的にめんどうを見ます。
いわゆる「相談役」や「メンター」のような立場で、新人1人につき1名が任命されるため、より深いコミュニケーションが可能です。通常の「職場の先輩」といえば、仕事での不明点や疑問点を質問するだけの関係にとどまる場合が多いですが、「職場先輩」は仕事の枠を超えた、いわば兄弟のような関係になるのが特徴です。
2つ目は「面倒見役」の任命です。面倒見役は現場で起こった不安や疑問など、どのようなことでもすぐに聞ける人として任命されます。同じ現場で距離が近い人が任命されるため、悩みを共感してもらいやすく、的確なアドバイスをもらえます。
また、面倒見役も職場先輩と同じように新人1人につき1名が任命されます。職場先輩も面倒見役も、めんどうを見てもらう側だけでなくめんどうを見る側も後輩や部下との接し方を学べるよい機会になります。
めんどう見を導入すれば、部下だけではなく先輩や管理職の育成にもつながります。多くの企業で正しい人材育成ができていない現状があり、「どうやって後輩や部下を育てていけばよいかわからない」と悩んでいる企業が多いのも事実です。
管理監督者の評価項目では「人間力・人望」が10%を占めており、リーダーシップや業務に必要な知識や技能などと同様に重視されています。この人間力・人望を高めるには「ほめる」「しかる」「見守る」のコミュニケーションが必要不可欠です。
人と人のつながりは「企業力」や「生産性向上」の基盤となり、会社を強くたくましい組織へ導きます。
以下の記事では、製造業で生産性を高める方法を詳しく解説しています。生産性向上の具体的な事例や実現させるポイントもまとめているので、ぜひご覧ください。
製造業の生産性向上とは?取り組む4つのメリットや重要なポイントも解説
トヨタのめんどう見を構成する要素は以下の3つです。
正しいめんどう見をおこなうためには、常に現場やそこで働くメンバーを把握する必要があります。
また、職場先輩制度の導入や面倒見役を任命すれば、受ける側だけではなくめんどうを見る側も大きく成長できるはずです。人と人のつながりは「職場力」となり、全員の士気が高まることによって生産性向上にもつながります。
優秀な人材育成はもとより企業全体のパワーアップを目指したい方は、ぜひめんどう見を取り入れてみてください。
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