監修者
文室 義広
OJTソリューションズで、お客様の改善活動と人材育成をサポートするエグゼクティブトレーナーをしています。トヨタ自動車にて、製造現場の改善、販売店の事務系改善などの42年の経験をへてOJTソリューションズに入社しました。少林寺拳法で鍛えた「自他共楽」の精神を胸に、お客様の会社の社員になった気持ちで日々改善活動に伴走しています。
人は、失敗すれば本能的に隠そうとします。これはどのような企業でもよく見られる光景ですが、失敗を隠すのは問題を放置するのと同じで、どんどん問題が大きくなってしまいます。そこでトヨタでは失敗を視える化して問題を早期に発見・解決できるしくみをつくっています。
失敗を視える化するしくみのひとつに「アンドン」というものがあります。「アンドン」を用いれば個人の判断に頼らなくて済むうえ、チーム全体でカバーできるなど業務効率や生産性向上にもつながるしくみです。本記事では失敗を視える化するしくみや「アンドン」の具体的な導入例を紹介します。職場で起こる失敗や問題の扱い方を知りたい方はぜひご覧ください。
どんなに優秀な人でも失敗することはあります。そして、人は失敗を本能的に隠そうとします。進んで失敗を喜んで報告したい人や自分に都合の悪い情報を出したい人はいないため、どうしても失敗は隠れてしまいがちです。
以前トヨタのトレーナーが工場の責任者に1日あたりの計画達成率を尋ねました。すると「達成率は80%です」と回答が返ってきました。80%という数字は悪くないものの、より詳しく尋ねると、本来8時間で100台作る計画が、実際には10時間で80台だったことがわかりました。定時の8時間あたりで計算すると64台ですから、本来の計画よりもはるかに劣っています。
つまり、責任者は2時間の残業をしたことを隠して、最終的な生産台数の数字のみを報告して体裁を保とうとしてしまったのです。工場の責任者が嘘をついたわけではありませんが、おそらく「こんな達成率では恥ずかしい」「自分の能力が低いと思われるのではないか」こんな防衛本能がはたらいてしまったのだと想像できます。
トヨタでは個人の判断に頼らなくて済むように失敗が視えるしくみとして、「アンドン」を取り入れています。「アンドン」とは異常発生を表示装置に点灯させるしくみのことです。何か異常が起こったら作業者は作業場に張ってあるひもを引くのがルールになっています。ひもを引くと装置が点灯し、ラインが止まります。
通常の職場では業務効率や納期を優先するあまり、もしかしたらラインを止めてしまった人が責任を追及されるかもしれません。「なぜ勝手にラインを止めたんだ」と怒る上司の姿も想像しやすいでしょう。
しかし、トヨタでは「アンドン」のひもを引いた作業者が、異常によりラインを止めたことに対して責任追及や叱責されることはありません。むしろ早期に異常を見つけた行動に対して「よく止めた」と評価されます。
トヨタでは作業当事者に「止める、呼ぶ、待つ」の文化を浸透させています。具体的には、異常が起こってラインを止めたあと、上司や責任者を呼び「どういう手順でやったのか」「どのような状態で問題が起こったのか」を確認してもらいます。事実関係の確認が終わって問題解決が済めば、あとはラインが動き出すのを待つのみです。止めなかったらどうなるでしょうか。
怒られるのを恐れて「これくらいならバレないか…」と後ろに加工品を流すと、もちろん検査で不良としてひっかかります。しかしその時にはもう手遅れです。誰がいつどんな状態で起こした問題かわかりませんから、再発防止ができません。
「止める、呼ぶ、待つ」の文化の浸透と「アンドンのひもをよく引いてくれた」と言われる世界だからこそ、すべてのメンバーが失敗や異常を隠すことなく、積極的に発見・報告しています。隠されがちな失敗を表に出す秘訣は、失敗した当事者を責めることなく、問題を引き起こした真因(真の原因)にフォーカスすることです。
失敗は改善の種であり、真の原因を特定できれば同じような失敗が起きることを防ぐことができます。ラインが止まったことに怒る、焦るのではなく、「今後の失敗を防げるチャンス」ととらえてみてください。
人は失敗を本能的に隠そうとします。しかし、問題は放置すればするほど大きくなっていくため、早期に失敗や異常を発見・報告する必要があります。トヨタでは失敗を視える化するしくみとして「アンドン」を取り入れており、作業者が異常に気付くと、ひもを引いてすぐにラインを止められるようになっています。
隠れがちな失敗を表に出す秘訣は、失敗した当事者を責めずに問題を引き起こした真因にフォーカスすることです。職場で起こる失敗や問題の扱い方にお悩みの方は、今回紹介した例を参考にして失敗と向き合ってみてください。
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