監修者
文室 義広
OJTソリューションズで、お客様の改善活動と人材育成をサポートするエグゼクティブトレーナーをしています。トヨタ自動車にて、製造現場の改善、販売店の事務系改善などの42年の経験をへてOJTソリューションズに入社しました。少林寺拳法で鍛えた「自他共楽」の精神を胸に、お客様の会社の社員になった気持ちで日々改善活動に伴走しています。
業績を向上させ、経営を円滑に進めるためには日常管理が大切です。日常管理とは、会社方針や目標を達成するために現場で実践する日々の取り組みです。
トヨタでは企業の成長に不可欠な日常管理を徹底しており、会社方針や目標を日々現場が取り組む課題にブレークダウンし、効率よく実行することに重きを置いています。
また、日常管理に欠かせないツールがトヨタ独自の日常管理板です。日常管理板を用いれば現場の変化や問題にいち早く気付き、適切な方法での改善が可能になります。本記事ではトヨタの日常管理の進め方や日常管理板を使う3つのメリットを詳しく解説します。
トヨタの日常管理とは、会社方針や目標達成のために、従業員全員がベクトルを合わせて一人ひとりの役割を実行するための仕組みです。
会社がかかげる大きな経営目標を、部の目標→課の目標→チームの目標→個人の目標…と分解して落とし込むことで、日々の個人の仕事が会社に貢献している、と感じさせることができます。
たとえばテレワークや広い工場で一人で作業している際、ふと「この仕事の意味はなんだろう」と考えることもあるでしょう。日常管理がしっかりできていれば、それぞれの従業員が「この仕事は会社のやりたいことにつながっている」と感じることができ、仕事の方向性を見失うことなく働けます。これが日常管理の役割のひとつです。
日常管理をおこなわなければ、従業員が各々違う方向を向いてしまい、業務効率や生産性が低下してしまう可能性があります。そのような状況に陥った場合、目標達成までに時間がかかる、あるいは目標が達成できないなどの問題が起こるかもしれません。
トヨタでは日常管理をおこなう際に日常管理板を用いて、現場の変化や問題の早期発見・改善を実現しています。仕事の目的・進捗・課題を視える化し、改善するのに日常管理板は欠かせません。
トヨタの日常管理は、以下の3つのステップに沿っておこなわれます。
どれかひとつでも不十分なステップがあると、日常管理の効果を十分に発揮できません。それぞれ日常管理に欠かせない重要な要素なため、ひとつずつ詳しく解説します。
まずは会社方針の決定・明示により日常管理がスタートします。
会社としての目標はどこに設定するのか、従業員全員でどのような目標を達成したいのかを詳しく決定します。そのためには、何よりも経営者が日々の現場の実態を把握することが重要です。
現在起こっている問題や解決すべき課題など現場の実態を知ったうえで会社方針を決定し、すべての従業員に明示します。多くの企業では、会社方針をメンバーは把握していません。会社方針は「経営層や部長級だけが知っているもの」になってしまっています。全従業員に明示し、周知させる工夫が必要です。
会社方針が決定・明示されたら、上司や部下と相談しながらどのように問題に取り組むべきか、マネージャーが考えます。
例えば、「今年は品質重視の1年にする」が会社方針の場合、自部署の状況と照らし合わせて品質を上げる方法を考えます。そこで、再発防止策の実行が不十分なことに気付いたら、「再発防止策を徹底する」が職場方針になります。
職場方針は掘り下げれば掘り下げるほど具体化するため、自部署の状況を詳しく把握したうえで決定するのがよいでしょう。
管理指標とは方針や目標に対するゴール地点の基準のことです。たとえば「再発防止」が職場方針であれば、不良率や不良件数などの数値を基準に設定します。
具体的な数値を決めておくことで達成・未達成を客観的に判断できるとともに、ゴールまでの距離がわかるようになります。「方針・目標が達成できたかを確認し、管理する流れ」と「職場の全員で問題解決に取り組んでいくサイクル」と2つの流れを設定しましょう。
会社方針を職場の身近な問題に落とし込んだら、具体的な施策を実行します。そして、具体的な施策により問題が解決したら、管理指標がクリアされ、職場方針が達成されます。結果として会社方針の達成にもつながり、利益の創出を実現できるというボトムアップによる成果の連鎖が起こります。
この仕組みと流れを誰にでもわかりやすく1枚のボードにまとめたものが日常管理板です。
次に、日常管理板の具体的な書き方を紹介します。
まず横列に取り組みたいジャンルを記入し、縦列には以下の3点を記入します。
日常管理板を書く際に、最初から細部を決めるのは難しいかもしれません。そこで、まずは職場内で発生している身近な問題の解決から取り組むとよいでしょう。
職場方針・目標に関しても、「〇〇したい」など抽象的なゴールを設定するところから始めて問題ありません。
管理指標とは、目標数値と達成状況や推移を管理する指標です。目標値は現場の疲弊を生まないよう客観的なデータに基づいて適切に設定することが大切です。また、職場方針・目標に関連性の高い指標を見つけるよう意識しましょう。
トヨタの日常管理板の強みは、「経営者が目指しているもの」と「現場が取り組んでいること」が連携できる点にあります。現場の状況や問題点をよく把握したうえで、従業員全員がついて行ける日常管理板を作成するのが理想です。
日常管理板を使うと、日々の業務を管理しやすく、従業員全員の取り組むべき施策が明確になります。具体的には、以下3つのメリットが挙げられます。
それぞれの内容を詳しく解説します。
日常管理板を用いれば、まったく別の方向を向いていた従業員たちに一体感が生まれます。従業員全員が、目標実現や達成のために何をすべきか具体的に認識できるようになるためです。
また、日常管理板では会社への貢献度を数値として把握できるため頑張りを実感しやすく、やりがいを持って仕事に打ち込める点もメリットのひとつです。
従業員全員が存在意義を感じてモチベーションが高まると、おのずと各々の問題解決能力も上がり、目標達成に近づけます。
日常管理板では「今、自分たちの職場は何を重点的に取り組んでいて、どのような状況なのか」がわかります。
あるべき状態と現状を視える化すれば、発生している問題や施策の進捗状況を確認でき、効率よく改善をおこなえます。
また、日常管理板を職場全員がいつでも見られる場所に設置することで、上司や部下、メンバー同士のコミュニケーションツールとして活用できるメリットもあります。
日常管理板を用いて不良の発生回数など、具体的な問題を記録することには大きな意味があります。トラブルや不良が起こるたびに記録を付ければ、従業員全員が改善すべき問題として認識するようになります。
トラブルの発生回数や頻度を明確に記録すれば、その事象が繰り返し起こっていることに危機感を感じ、従業員全員が問題を自覚・改善する意識を持つようになるでしょう。
このように、日常管理板によって各々の自律性が高まり、それぞれの業務が丁寧におこなわれることにもつながります。
トヨタでは、設定された目標に向けて各部門で担当している業務をスムーズかつ効率的におこなうための日常管理を徹底しており、それを実現するツールとして日常管理板が活用されています。
日常管理板を最初から細かく作り込むのは難しいため、まずは抽象的な「〇〇したい」などの目標から設定するとよいでしょう。そのあとに、それぞれの部署でおこなうべき施策に落とし込み、従業員全体で現状の改善や目標達成を目指します。
従業員ひとりひとりの生産性が向上すれば会社の大きな成長にもつながります。ぜひトヨタの日常管理を実践してみてください。
RELATION
PAGE
TOP